跳べ! 真里!!(11)

槍介とジキルからすべての事情を聞いた田島は、すぐに真里を病院へ運ばせた。
両足首捻挫。他にもあちこち擦り傷を負っていたため、全治一ヶ月と診断された。
しばらくの間、真里は松葉杖をついてテレビに出演しなければならない。
トークはもちろん、レギュラー番組の歌のコーナーも椅子に座っての演奏である。
「地上十階で! 小学生をビルからビルへと跳ばせたなんて! 君って人は何を考えてるんだよっ!!!!」
赤坂見附にある飯田プロダクションの社長室に、怒号が響き渡る。
社長の田島は目をむいて憤りながら、目の前の小男に剣突を食わせた。
ジキルはソファで小さくなり、ただ頭を下げ続けるしかなかった。
「すんません……ホンマ、すんません……」
「子供の体を何だと思ってるわけ? しかもうちの大事なアイドルなのに!」
「全部、ワシのせいです……責任取ります……」
「責任も何も、スケジュールは滅茶苦茶だし、『PUSSYCAT'S』の新曲も延期せざるを得ないし、どれだけ損害を被ったと思う?」
「申し訳ありません。ホンマに申し訳ありません」
「ジキルくんさ、君は、事の善悪ってものがわかんないのかな、まったく」
「ホンマ、申し訳ありませんっ!」
普段は温厚な田島であったが、怒ると手がつけられなかった。
ジキルとしても、何もかも自分が悪いのだから反論できない。
田島はしばらくの間、叱責を繰り返していたが、やがて大きな溜め息をついて、ソファに腰をおろした。
「とにかく……もう、ここには出入り禁止ってことにさせて欲しいんだけど。いいかな」
「はい……」
「今、進めてもらってる衣装の方も、悪いんだけど、もう……」
「わかりました……」
そこまで話した時、不意にギィー…とドアが開いた。
「誰? 今、大事な話し中……」
「あ、あの」
「あのー」
ぴょこんと顔を出したのは……雅香と紗菜だった。
二人はおずおずと部屋の中に入り、田島に深く頭を下げた。
「社長、お願いします。ジキルさんを許してあげてください」
「お願いしますぅー!」
「わたしたち、これからも[JEKYLL-DOU]の衣装を着たいんです!」
「次の衣装だって、すごく楽しみにしてたんですー」
「雅香ちゃん……紗菜ちゃん……そんなこと言っても、彼は真里ちゃんのことを」
「でも、あの時はしようがなかったんだよ、社長っ!」
二人の後ろから、みそのが駆け込んで来た。キッとした表情で田島を見据えている。
「みそのちゃん。状況は俺も何度も聞いたよ。でもね」
「だって、アリサちゃんが死んじゃうとこだったんだよ!」
「アリサちゃんは、わたしたちの大事なお友達なんです!」
「真里ちゃんが助けてくれたって聞いてー、わたしたち、胸がいっぱいになってー」
みそのの後に、雅香と紗菜も言葉を続ける。
しかし田島は多少たじろぎながらも、
「そういう問題じゃないんだよ、みんな。大人の話に口出ししちゃいけないよ」
と、三人の訴えを退けた。
みそのと雅香と紗菜は、シュンとしてうつむいた。
その時。
ふと、三人は耳をそばだてた。廊下から、規則的なコツ、コツという音がする。
音は次第に大きくなり、やがて社長室の前で止まった。
みそのがドアを開けると、そこには松葉杖をついた真里が立っていた。
「真里ちゃん。自宅で安静にって、言っておいたはずだよ?」
田島は眉をひそめた。
真里は田島の顔をじっと見つめながら、言った。
「言っておきたいことがあって、来ました。社長」
「……座りなさい」
真里はゆっくりとソファに歩を進めた。体を気遣い、雅香たちがサポートする姿勢を見せる。
真里はジキルの隣に腰掛けると、
「うふふー」
と、ジキルに向かって笑った。そして、ゆっくりと話し始める。
「社長。あたし、今まで……自分が<メルティピンクの四人目>だと思ってたんです」
「四人目?」
「順番に名前言ってったら、必ず最後に思い出す。そんな感じ。でも仕方ない。あたしは、みんなに比べたら、自慢できるものなんて何もない。そう思ってました。ずっと」
「真里ちゃんは、運動神経抜群で、ダンスだって天才的だろう?」
「うん……でも、そんなの自慢にできなかった。あたし、どっかで自分のそういうの、認めてなかったみたい」
真里はゆっくりと言葉を選びながら、落ち着いて話した。
みそのも雅香も紗菜も、呆然として真里の顔を見つめていた。同じグループのメンバーであり大親友がそんなふうに考えていたなんて、夢にも思わなかった。
田島は黙ったまま、じっと真里の言葉を噛み締めた。
「でもね、社長。あたし跳べたの。大人でも跳べないようなところを……空を飛んだの! そうしたら、今まで悩んでたことが全部吹っ飛んじゃって、体の中から、自信が沸き上がってきたの。すっごい気持ちよかった! すっごい世界が変わったの! 何か、いろんなことがわかって……おかしいんだけど、ごはんも前よりおいしく食べられるようになったの!」
生き生きとした真里の表情に、田島は相槌さえ打てなかった。
その隙を縫って、
「レンジャー訓練とかするとな、人格変わる人もおるんやで」
ジキルが真里に話しかけた。
「本当?」
「極限に挑戦するいうのはそういうことらしいで。今まで見えんかった自分の内側、見えるようになる。自分の本質、見極められるようになる」
「店長のおかげで、あたし、生まれ変われたような気がする」
「そうか。よかったなぁ」
「……」
田島は困ったように眉間に皺を寄せた。
 

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